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 逃げ帰った男たちはボスであろう男に震えながら報告していた。
「ボスッ、あの小娘おかしいですぜっ!」
 勢いよくドアを開けて入ってきた男たちに、ボスと呼ばれる男は眉を上げた。
「なんだ騒がしい。娘はどうした、連れてきたんだろうな?」
「そ、それどころじゃ」
「…まさかしくじったと?」
 ボスの目が細まる。
「あの娘普通じゃないですぜっ」
「見てくださいよっ」
 男たちは真っ二つになった銃をテーブルに置いた。
 それを見るや、ボスの目が驚愕に見開く。
「化け物だぜっ」
 男たちが喚く中、ボスは真っ二つになった銃を見ながら何やら考えている。そしてクククと笑った。男たちはギョッとする。
「…ボス?」
「わかった、もういい下がれ」
 これは使える。ボスは尚も笑い続け、そんなボスを見て男たちは青ざめた。
 うまく手に入れれば面白い。稀なる娘よ。
 ボスは電話を取り、とある男にかけた。
「…ああ私だ。もう一つ依頼だ。今から送る娘を捕らえてくれ。生きてさえいれば良い」

 遥の知らないところで事態は進んでいく。



 ハックシュンッ!
 やばいなぁ風引いたかな。
 教室のベランダから校庭を眺めながら遥は軽く鼻をすすった。
 夜中に玄関を開けっ放しにしたあげく、パジャマ姿でいれば風邪も引くというものだ。
「よう! 相変わらずそこが好きだな」
 昨夜のこと考えていると、後ろから声がした。振り向かなくても分かった。
「威、今日は何?」
 ツレない返事を返すと、戒は微苦笑した。
「おいおい、用がなけりゃ話しかけちゃ駄目なのかよ」
「そうじゃないけど」
「寒くないのかよ。風邪引くぜ?」
 威は教室の中で窓から遥に話しかけている。
 遥は暑い寒い関係なく、この場所がけっこう気に入っている。
「風邪なら、たぶんもう引いた…」
 この言葉に威は呆れた。
「だったら中入れ、悪化したらどうする」
 たいしたことないのにと思いながらも、威の言うとおりに教室へ戻った。
「あぁそうだ、今日って理事長いる?」
 威の隣席に座りながら聞いた。
「理事長? 確か今日はいないはず。何かあるのか?」
「うんちょっとね…、アランのことで」
「アラン? 護衛は終わったろ? 何かあったのか?」
「う〜ん、ちょっとねぇ…」
 さすがに昨日のことは話せないしな。威の父親は部署は違えど兄と同じ職業…。絶対兄に話がいく。
「明日は?」
「明日ならいるんじゃないか」
「じゃあ明日にするか…」
 クシュンッ。
「ほらみろ、食堂行って温かいスープでも飲んで来い」
 そう言いながら威は教室を出て行った。
 …今のところくしゃみだけなんだけど…。

「失礼、理事長室はどちらに?」
「えっ、り、理事長室ですか?」
 突然話しかけられた女生徒は相手の容姿にドギマギし、顔を真っ赤にした。
 話しかけた相手は、金髪蒼眼、眼鏡、ダークスーツ。片手にコートを掛け、身長は百八十はあるだろう。髪は長く後ろで束ねている。モデル張りのスタイルだったから女生徒が赤くなるのも無理はない。
 しかし、聞いた相手が悪かった。女生徒のタイが赤だった。赤タイは一年生なのだ。
「す、すいません…わかりません…」
 オロオロしだした彼女に、金髪蒼眼の主は微笑し「ありがとうございます」と言って歩いていった。
 赤タイは一年生、青タイは二年生、黒タイは三年生となる。
 女生徒は金髪蒼眼の微笑にやられ、その場に崩れ落ちた。他の生徒たちも崩れ落ちた者多数。そして、誰もが思った、ここ数日美形ばかりが来訪すると。
 遥は、食堂でスープを飲んだ後、理事長室へ向っていた。すると、ところどころで生徒たちが真っ赤になって崩れているのが目に付いた。
 何があったんだ? 不思議に思いながら歩いていると、その場面に遭遇した。
「……」
 金髪蒼眼の長身の男が微笑むと周りの生徒たちが崩れた。
 …あの男のせいか…。
 しかし…、なんで先生がいないんだ? よくわからないわうちの教員。
 遥は嘆息した。
 生徒たちが崩れたおかげで、視界が開けた状態になった。そして、金髪蒼眼の男は、前方にとても目を引く女生徒がいるのに気が付いた。しかも彼女は溜息を吐いていた。男は遥に歩み寄る。
 近寄ってくる男に、厄介ごとじゃなければいいなぁと思う遥だった。
「すいません、理事長室はどこでしょう?」
「理事長室ですか?」
 外国人で理事長に用事…しかも教員が誰も案内していない…。
 ここ数日のことを思うと、厄介ごとだと直感した。
「はい、みなさん存じ上げないみたいで困っていたんですよ」
「もしかして、聞いた相手は赤タイじゃなかったですか?」
 こちらですと、促しながら今までの惨状を確かめるべく聞いた。
「あ、ああ、確かにそうだったかもしれません」
「赤タイは一年生なので知ってる生徒は少ないんです。ちなみに私が着けている青タイは二年です」
「そうなんですか」
「ところで、理事長室へご案内するのは構わないんですが、もしかしたらいらっしゃらないかもしれません」
 あたしも確かめに行くようなものだし。
「…それは困りました。先日のお礼をしたかったのですが」
 先日…。チラッと男を見つつ
「アポは取っていないんですね?」
「そうなんですよ、さっき日本に到着したばかりでそのまま来てしまったので」
「どちらからいらしたんですか?」
「イタリアです」
 ビンゴ。
 アラン関係者か。敵だろうか…。
 理事長室の前に着いた。
 遥はドアノブに手を掛けた。
「ここが理事長室ですが…どうやらいらっしゃらないようですね」
「そうですか…」
 男は少しガッカリしていた。
「…よろしければご伝言お預かりしますが」
「いいんですか?」
「ええ。差し支えなければ」
「ではお願いします―」
 紙に残るといけないというので言葉での伝言になった。
 その内容を聞いて遥は苦笑した。男の素性が想像していた通りだったから。しかも、アランの側近兼教育係だという。名はレオ・アンシャルド・パッセ。
 後日連絡させることを約束し、玄関まで見送った。
「やれやれ」
 まだまだ何か起こりそうだね。



「アラン様。先ほどレオ様からご連絡があり今こちらへ向っているそうです」
 とあるホテルの一室で、仕事の書類に目を通していたアランは、護衛からの報告を聞くと溜息を吐いた。
「やっぱり来たのか…」
 まぁ、今回の日本行きを一番反対していたのはアイツだからな。来ないわけないか。
 今の護衛たちでもうるさいのに、さらにうるさいやつが来たな。
 アランはやれやれと溜息を吐いた。


 今晩のおかずは何にしようと考えながら下校していると、前方に見覚えのあるベンツが停まっていた。
「……」
 関わりたくないので別の道を行こうと次の角を曲がった。
「随分と嫌われたものだな」
「―っ!」
 …曲がらなきゃよかった…。
 曲がった数歩先に橘が待ち伏せていた。まるで遥の行動を読んでいたかのように。
「…何かご用ですか」
 ムスっとした顔で問う。そんな遥に橘は微笑した。
 ―なっ。この人でも笑うのかっ。内心ぎょっとしつつも顔はムスっとしたまま。
「夕食に招待したいのだが」
 はい?
「…なぜですか?」
「理由が必要か?」
「当然です、あなたとはまだ二回しか会ったことがありませんし、会話したのはこの間が初めてです。親しくもない人と気軽に食事なんてできません」
「固いな。ならこれから親しくなればいい」
 橘の言葉に遥は目を開いた。
 親しくなりたいのだろうか?
「家に連絡するならして構わない」
 橘は歩き出した。
 遥は、よくわからない人だと思いながらも橘の後に続いた。
 着いて行こうと思ったのは、きっと今日の彼の目が穏やかだったせいかもしれない。
「今は一人ですから大丈夫です」
「家族はいないのか?」
「両親は海外赴任中、兄がいますけどその兄も仕事の研修で海外です」
 って、あたしは何ペラペラ話してるんだ。
 橘はチラッと遥を見て
「なら、誰もいなくて幸いだったな」
「え?」
 意味深な言葉だ。
 遥は橘を見つめるが、橘はただ含み笑いをするだけだった。