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「寝坊でもしたのかしら?」
 一瞬、何を言われているのかわからなかったが、あぁと納得した。
 寝癖か…。
「いえ、そうではないのですが…。申し訳ありません、あとで直します」
「いいのよ、あなたのこんな姿滅多に見れないんですもの。それに今日は少し沈んでるのかしら?」
「いえ、あの…、大丈夫です。それよりも何か御用があったのでは?」
 昨晩のことを思い出したくもなかったので話を切り替えた。
「ああ、そうそう。この方なのだけれど」
 そう言いながら客人を紹介した。
 客人はスッと立上り、遥の前に立った。
「こちらイタリアからいらした、アラン=フォレスト=ダルクさん」
「初めまして、アランとお呼びください」
 スッと手を差し出した。
 …うわぁ、超絶美形。なんて綺麗な瞳の色なんだろう。
 思わず見入ってしまってハッとなった。
「あ、初めまして。宮城 遥です」
 慌てて手を握った。
 ふわりとアランが微笑む。それと同時にそのまま遥の手を取ると、手の甲に口付けを落とした。
「…っ!」
 あまりというか、ほとんど慣れない行為に遥の頬は赤くなる。
 ヒューゥと威はニヤつく。
 し、心臓に悪いっ。
 理事長は微笑むだけ。
「威さんは先ほどお会いしていますものね」
「はい」
「…理事長、それで」
 必死に動悸を抑えつつ問う。
「実はね、あなたに彼の護衛をお願いしたいのだけど」
 ―護衛。
 その言葉を聞いた瞬間、動悸は一気に抑まった。
「それは校内だけですか?」
「そうね、時と場合にもよるのだけど」
「それでしたら生徒会でもよろしいのでは?」
 すると理事長は、それがねぇと頬に手を当てて溜息をついた。
「この方の素性を話したら、あなたが適任だろうと仰って」
「私が、ですか?」
 ええ、と理事長は頷く。
 うちの生徒会はちょっと変わっている。
 理事長がこういう人っていうのもあるが、けっこう生徒会は力がある。文武両道眉目秀麗といった嫌味なほどである。
 ハッキリ言ってあたしは好きじゃなかった。できることなら関わりたくないのが本音だ。でもある日あたしはミスをおかした。
 …思い出すのも嫌だ。
 と、遥は頭を振る。
「生徒会じゃ手に負えないということですね」
「どうやらそうらしいのよ」
 困った顔をしながら、どうかしら?と問う目を向ける。
 ちらっとアランのほうへ目線をやる。
「…いいでしょう。引き受けます」
 ほんとうなら溜息をつきたかったけど、まさか本人を目の前にしては吐けない。
 遥は心の中で嘆息した。
 そこへ、威がニヤついているのが見えた。
「…なに?」
 威の目線が下へ向くのを、目で追った…。
「――っ!」
 今度こそ遥は赤面した。
 アランに手を握られたままだったのだ。



『今日明日だけだからよろしくお願いしますね』
 コロコロと笑う理事長の顔が今でも浮かぶ。
 ハァ〜…。思いっきり溜息を吐く。今アランがいない。外にいる護衛に事情を説明しに行っているから。
 一応目線だけは追ってるけど。
「……」
 まさかねぇ、マフィアの息子とは。
 ベランダの手摺に顔を埋める。
 あれは
「詐欺だな」
 ぽつりと呟いた。
「僕もそう思いますね」
 突如後ろから声がした。
 ……。
「…珍しいですね、あなたが引き受けないなんて。西村会長?」
 ベランダの手すりに肘をつく体勢のまま遥は声の主に答えた。
 ふわり、後ろからほのかに薔薇の香りが漂う。
 西村は遥の後ろ姿を見つめながら窓際に背をもたれかけた。
「あの容姿でこの素性は詐欺だと私も思いますよ」
 くすくすと笑う。
「あなたも人のこと言えないと思いますけど」
「それは褒め言葉かな?」
「……」
 ベランダがまるで違う世界にでもなったかのようで、煌びやかで優雅な世界が広がっている……と、外野はすごい取り巻きができていた。
 今となってはもう慣れたが、初めの頃はそれが嫌ですぐに逃げ出していた。
「あなたにはすべて褒め言葉になるんでしょう…っ」
 なるんでしょうねという言葉は最後まで言い切れなかった。
 アランを見ていた遥の目が何かを捉えたからだ。
 遥を見ていた西村は怪訝な顔をする。
「どうした?」
 遥は気を巡らせる。
「……いえ、気のせいだったみたいです」
「……」
 アランの周りには護衛が囲っているのと、女生徒達が集まっていたのが幸いかな。
 一瞬の殺気が走ったけど、すぐ消えた。
 しかし、
「いくら私でも、非現実的なもの以外で飛んでくるものについては護れませんよ?」
 いきなり話が飛んだようにみえるが、西村は理解したようだ。
「でも落下物なら護れるだろう?」
「それはそうですけど」
 ふわりと薔薇の香りが近づいた。
 隣に目線をやると、西村が立っていた。
 西村は、クスリと笑うと手を伸ばした。
 …?
「これは寝癖かな?」
「――っ!」
 遥がカッとなって叫んだのは言うまでもない。