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ま、負けるな遥! ここで怯んだら終わりよっ。と、心の中で自分に叱責しグッとナイフを掴んで立ち上がった。
「なんですか?」
ドキドキする鼓動を何とか抑えつつ、笑顔で答えた。
男の目は、その一睨みで人が殺せるんじゃないかというくらい冷たかった。
……うぁ〜…(汗)
ハンカチでナイフの指紋を拭くと、そのまま包んで運転手に渡す。
「……じゃ」
片手をあげて、笑顔で言うとそのままダッシュで逃げた遥だった。
「……」
その後ろ姿を冷たい眼差しで見ている男。
「いかがされます?」
運転席に座っていた男が聞く。
「女は放っておけ。今の小娘を探せ」
「わかりました」
まさか自分が標的にされたことなど遥にはわかるまい。
急いで自宅に戻る遥は、心の中で叫んでいた。
最悪だ、最悪だ、最悪だっ!
よりによってなんであの男なんだ〜〜〜〜〜っ!
翌日、どんよりとした気分のまま学校へ。
遥は城南高校へ通う十七歳。
寝起きは最悪で、寝癖も完ぺきに直す気力がなかった。
登校した遥を見た他の生徒たちはどよめきを隠せなかった。いつもならキャーキャー騒ぐのに、登校してきた瞬間、歓喜から驚愕に変わっていた。
いや、別に女子高でもなんでもなく、普通の共学なんだけど。なぜか遥は注目の的だった。風貌がそうさせているのだろうと当人も思っている。髪の色がブロンドに近いのだ。長さはサイドが肩くらいで、後ろが少し長め。ワンポイントのように薄いピンク色のピアスが覗く瞳の色も薄茶なのだ。別にハーフでもなんでもない、生まれつきだ。自分は結構気に入っているから気にはしていないけど、やっぱり目立つ。
周りが驚愕したわけは、いつもは眩しいくらいに輝いているオーラがどんよりと暗く、キラキラと揺れる髪には寝癖が残っていたからだ。
「ようっ。どうした朝からシケた面して」
下駄箱まで行くと軽快な声が降ってきた。
上を見ると、踊場からこちらを見下ろしている一癖ありそうな笑顔があった。
下駄箱は吹き抜けになっていて二階から見下ろせるようになっている。
「…威、おはよう、今日は早いのね」
威と呼ばれる笑顔の主は、峰内威、遥と同級生だ。
威はニカッと笑った。
「ボスのお呼びだ」
ボスと聞いた瞬間、遥はさらに深い溜息をついた。
ボスのお呼び=理事長のお呼び。
朝から何〜?と、肩を落としながら威と共に理事長室へ向った。
「まぁ、そうなんですの? あなたも大変でしょう?」
コロコロと笑いながら理事長はご機嫌だ。
「いえ、もう慣れましたから。さすがに一人旅は許してもらえませんでしたが」
少し苦笑しながら話し相手は足を組み直した。
スラリとした足、ブイネックのセーターを素肌に直に着、ジーパン、金髪に青の瞳をしている。
でも、会話は日本語だ。
「今日は護衛の方はどちらに?」
「外で待たせてあります」
「そうね、いくらなんでも黒服の怖い顔をした方が、学園を歩かれると他の生徒がびっくりしてしまいますし」
コロコロと笑う。
つられて客人も笑む。
「学園内でのことに関しては、今、案内役兼護衛の者を呼んでいますからご安心を」
コンコン。ふいに扉がノックされる。
来ましたわと微笑んだ。
「お入りなさい」
扉を開けて入ってきたのは、遥と威。
「おはようございます理事長。何か御用でしょうか?」
義務的な挨拶を述べたあと問う。
客人は入ってきた遥に目を奪われた。制服ながらも、その存在は大きく、半透明な透き通った空気を纏っている。髪はブロンドに近い薄茶で、瞳も同じ色をしていて、なにより強い輝きを放っていた。
少し跳ねている髪が愛らしい、寝癖だろうか。
「急にごめんなさいね。昨日のうちに言っておけばよかったんだけど…」
少し困った顔で言った理事長の顔がさらに困った顔になった。
遥はちょっと首を傾げた。
「理事長?」
理事長は微笑みながら近寄り、遥の髪に触れた。