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冬、気温はそんなに低くはない、かといって暖冬というわけでもない。街のイルミネーションも毎年違う色合いを点けている。行き交う人々はその輝きに目を惹かれ気分も盛り上がっていく。
しかし、そんな中において一ヵ所だけ氷点下に包まれた場所があった。それは路肩に停まっている白塗りでばっちりスモーク入りのベンツから。
「あたしはいやよっ! 絶対に別れない!」
「お前がどう思おうが決めたんだ」
車の中ではどうやら別れ話らしい。切り出したのは男の方で、女の方はというと高揚しているせいで顔を赤くし、目を吊り上げて抗議している感じだ。
二人は後部座席に乗っており、運転席にはサングラスをかけた男が座っている。
「ねぇ、なんで? あたしが嫌になったの? ねぇっ」
女は男の胸元を握り締め、先ほどから同じことを繰り返し言っている。
男は女の手をどけながら言った。
「…お帰りだ」
それは女に向けられたものじゃなく、運転手に言ったものだった。
運転手は車から降り、女側のドアを開けた。
「……」
男は無言のままタバコに火を点ける。
「…あたしは認めないわ」
女は騒ぐ風でもなく、男を冷たい目で一瞥し出て行った。
運転手の男は運転席へ戻り、バックミラー越しに男を見た。
「屋敷へ戻る」
「…悪寒がする…」
おかしい、そんなに寒くないと天気予報では言ってたのに。夜だからかな?
まさかバイトがこんな時間まで延びるなんて思わなかったし、時間的には今はまだ夜の九時なんだけど。
宮城遥は時計を見ながらブツブツと独り言を言う。
近道をしようと思い、いつもは通らない路地裏へ入った。路地裏といってももう住宅街なんだけど。
「……」
あんまり通りたくないと思うこの道。
じーっと横を見ながら歩いていく。高い塀が続いているのだ。
「…相変わらずデカいな」とボソッと言った時だった。
いきなり後ろからライトが当てられた。
後ろを振り向くと、それは車のライトだとわかった。
「……」
しかもハイライトかよっ! 眩しいわっ!
と、内心で叫びながら道の端に寄った。
けっして口には出すまい、なぜなら、車に乗っている人物が誰だかわかっていたから。
車は、スーッと横切り、門の前で停まった。
車から降り立った人物を、じーっと眺めていると、キラリと光るものが目の端に映った。
「…?」
そのまま目線を移動すると、電柱の陰に人の気配。
ゾクリと、また悪寒が走った。
「……っ」
反射的に動き出していた。
と同時に電柱の陰から刃物を持った女性が飛び出してきた。
咄嗟に車から降りた人物を突き飛ばし、刃物を持った女性の手を掴んだ。
車から降りてからここまでの時間は、ものの数秒だった。
「…痛っ」
掴んだ女性の手首を反射的に捻りあげた。
カシャンッ。
その瞬間、女性は小さい悲鳴をあげて、手からナイフが落ちた。
「ちょっとっ、何やってるんです!」
思わず叫んでいた。
「は…なしなさいよっ! 痛いったらっ!」
負けじと女性も叫んでいた。
でも放さなかった。
遥はビシッっと空いてるほうの手でさっき突き飛ばした男を指した。
「何があったか知らないけど、こんな人刺したってあなたにどんな得があるの? 損するだけじゃない」
女性は目を見開いて絶句した。
そして、突き飛ばされた揚句指を指された男は、目の端を少し吊り上げた。
女性は口の端をヒクヒクさせている。
「そ、そうね…、あ、ありがとう」
遥が手を離すと、そそくさと女性は走り去って行った。
溜息を吐きつつ、ハンカチを取り出してナイフを取ろうとしゃがんだとき、ゾクリと背中を刺す冷たい視線が降ってきた。
「……」
マ、マズイ…。
自分が失言をしたことは言ってからすぐ気付いていた。
どうしよう…(汗) 遥はナイフに手を伸ばしたまま固まった。
「…おい」
ヒヤッと、首筋が凍るような低い声。
「……」