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「それはそれは、ということは、一番のライバルはお兄さんですかね」
「そうですわね」
 二人は笑った。
「……」
 何を言ってるんだかもう…。
 アランを見れば何か考えてるし。
 さっさと本題に入ってしまおう。
 コホンっと咳払いをした。
「本題に入りますよ」
 ほほほ、と理事長は笑った。

 それから私は力があることを話した。
 二人は驚愕していたが、先日の件を目の当たりにしているので信じるしかなかった。
「しばらくピアスをしていないと力の制御が出来なくなってしまうの、だからあの時、エレベーターで避けてしまって、ごめんなさい」
 遥は微苦笑を浮かべる。
「いや、こっちこそ全然気付かなくてすまない」
 遥は首を振る。
「それが普通なんですよ」
 普通。その言葉にアランは少し胸が痛んだ。
 まるで自分は普通ではないと遥が言っている気がして。
「それで、鍵のことなんですけど。もう一度確認するけど、本当に焼却する?」
 アランを真っ直ぐ見る。
 アランも真っ直ぐ、そして真摯に遥を見て言った。
「ああ。約束する」
「…わかった」
 そう言うと遥は席を立ち、壁に掛けてある一枚の絵を外した。
 その行動に三人は顔を見合わせる。
 遥は額を外し、ボードと一緒に絵を持ってきてテーブルに置いた。
「この絵がどうかしたのか?」
「ここを見て」
 そう言って絵のある一部を指した。
 その絵は女性の人物画で、遥が示したのは指輪だった。
「ここ、立体的になっているでしょう?」
 確かに立体的に描かれているが。
「この指輪の絵がどうしたんだ?」
 遥はカッターを取り出し、絵を裏返し指輪の真後ろを切り取り始めた。
 その行動にはさすがの理事長もビックリのようで、思わず遥の手を止めた。
「遥さんっ」
 そんな理事長に遥は笑った。
 まぁ、焦るのも無理はない。
「大丈夫です。絵に穴は開きません」
「…そのボード、ずいぶん分厚いですね。二センチくらいありますか」
 不意にレオが言った。
 通常は五ミリ程度の厚さだろう。
「…その理由は、これです」
 ボードを五ミリ程切り取ったあと、その穴から取り出した物を見た三人は目を見開いた。
「指輪っ!?」
 三人同時に言っていた。
「そう。前々から、なぜここだけ立体なのか不思議に思ってたんですよ。今回の件で繋がりましたけど」
「その指輪…」
 アランがまさかというような顔をしている。
「そう、これが鍵」
 三人とも信じられないという顔をしている。
 それはそうだろう、探し回らなくてもよかったのだから。灯台下暗しとはよく言ったものだ。
「でもなぜ綾子さんの所にこれが?」
「それは理事長に聞けばわかると思いますよ。ねぇ、理事長」
 理事長は困ったように笑った。
「その絵は、あなたの亡くなったお爺様から頂いたものですのよ」
「祖父から?」
「ええ。私が小さいときに一度だけお会いしたことがあって、その時に頂いたものなの。まさかそこに鍵があるなんて知りませんでしたわ」
「祖父は鍵のことは知っていたはず、なのになぜ手放すようなことを・・・」
「それは、あなたと同じ考えだったから」
 遥は指輪を見つめながら言った。
 この指輪に残されたお爺さんの思いが伝わってくる。
「でも消却することは出来なかった」
 理事長に託した後、すぐに病に倒れてしまったから。
 遥はアランの手を取り、指輪を乗せた。
「お爺さんの願い、叶えてあげてね。あれは表に出てはいけないから」
 そう言って遥は微笑んだ。
 ギュッと遥の手を握り、
「ああ、約束する」
 アランもまた微笑んだ。
 そしてすぐ真顔になって、じっと遥を見た。
「…なに?」
「一つ聞いていいか」
「なんです?」
 手を握っているアランの手に力が入る。
 そして次に発せられた言葉に、遥は固まった。
「橘と婚約しているのか?」
「……はい!?」
 思わず声が裏返ってしまう。
 理事長は、「まぁ、そうだったの」と呟き。
 レオはなにやら納得している風に、頷いていた。
 遥の顔はみるみるうちに赤くなっていく。
 こ、こここ婚約!?
 あまりの衝撃に言葉を無くしていると、
「本当なのか…」
 アランがシュンとして呟いた。
 慌てて遥は否定する。
「してないから! どうしたらそんなことになるの!?」
「…この間、麗子という人に聞いた。遥は橘にとって大事な人だと…」
 言っていてなんだか落ち込むアラン。
「麗子さん!?」
「あの時の電話ですか、どうりで様子がおかしかったわけですか」
 レオは納得というような顔をした。
 遥は頭を抱えた。
「あのですね、どうやったらそこから婚約になるの。第一、知り合ってまだ一週間しか経ってないのに」
 確かにいい人かもとは思ったりもしたけど、よくわからない人には違いないし。
 麗子さんもなんでそんなことを言うのか…。
「じゃあ違うのか?」
「違います。婚約なんてしてませんよ」
 遥の言葉に、そうかとアランはホッとした。
 が、次のレオの言葉にまた落ち込む。
「いや、あの方はそのつもりかもしれませんよ? でなければ単身で助けには来ないでしょう」
 そうだ、その問題があった。
 総長が単身で乗り込むなんてあり得ない! あとで言っておかないと。
「そんなこと知りませんよ、とにかく、今現在私は誰とも付き合ってません!」
 って、なんでこんなこと断言しなくちゃいけないのよ…。
「そうか、そうだな、アイツが勝手に思ってるだけかもしれないしな、なら遥、私と付き合ってくれないか」
「――!?」
 ええ!?
 あまりのことにまたも遥は固まった。
 あらあら、と理事長は笑い。
 おや、とレオは微苦笑している。
 アランは遥の両手を握り、じっと見つめている。
 そ、そんなに見つめられてもっ。
「い、いきなり言われても…」
「私のことが嫌いか?」
「…嫌いじゃないけど」
 そのもって行き方は反則でしょ!
 グイっと両手を引き寄せられる。
 ちょっ、顔が近いってっ!
 理事長とレオはニヤニヤしながら見てるし。
「じゃあ、付き合って…」
 そう言いながらアランの顔が近づいてくる。
「ちょ―っ」
 アランッと叫びそうになったとき。
 バタンッ!と扉が開いた。
 扉の方に目線を向けるとそこには、
「強引な男は嫌われますよ?」
 風に乗って、薔薇の香りが仄かにした。
「西村会長」
 微笑んではいるけど目が笑ってない…。
「なんだ、邪魔をしないでもらえるかな」
 そう言いながら遥を抱きしめた。
「アランッ」
「宮城、お兄さんが帰ってくる頃じゃないか?」
「どうしてそれを」
「うちの情報網を甘く見てもらっては困る」
「そうでした」
 遥は微苦笑した。
 そして、スルリとアランの腕をすり抜けた。
「遥っ」
 扉越しに振り返った遥は微笑んだ。
「…またね」
 そう言って遥は理事長室を出ていった。
「なぜ邪魔をする」
 おもいっきり不愉快な顔をするアラン。
 そんなアランに西村は平然と答える。
「なぜ? そんなわかりきったことを聞くんですか?」
「お前も遥を…」
「…強いて言うなれば、全校生徒、でしょうか」
 ふふ、と笑う西村。