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「恋は盲目とはよく言ったものね。彼にライバル心を抱くのはいいことよ、けれど肝心の彼女のことを忘れてしまうのはいけないわね。橘に勝ちたいならもう少し頑張りなさい、ちょうど、いいお手本が隣にいるんだから」
麗子はレオにウィンクした。
レオは微苦笑した。
けれど、彼女の言うとおりなのだ、女性の扱い方は知っていても今までアランは本気の恋いというものをしたことがない。本人はしているつもりらしいが。
今まで付き合ってきた女性はほとんどが同じ世界だったりアランの立場目当てだったりする。
だから今回のように感情を出して誰かにつかみかかるということはなかった。
初めての失恋、ということになるだろうが、いい経験なのかもしれない。
二人は橘の後を追った。
「ボス、奴らが来たという連絡が」
「フッ、やはり来たか。この階を封じろ。リハルトを呼べ」
遥は一室に閉じこめられている。
ドアには殺し屋がたっている。
「……」
殺し屋の気配を探りつつ、遥は窓の外を見ていた。
今回は前回のように不届き者はいないようだ。
本当はあの場で暴れてもよかったんだけど、学校に仕掛けられた物が解除されたかわからないし。また理事長に確かめてもいいんだけど、テレパスってけっこう疲れるのよね、この後のこともあるから体力温存しておかないと。でも、なにか知る手掛かりはないかな…。
「…ねぇ殺し屋さん」
「なんだ」
「学校に仕掛けた物は解除してくれたんでしょうね?」
「さぁな、おれは仕掛けただけだ。スイッチならアイツが持っている」
「…スイッチ入れたとしたらどれくらいで爆発?」
「さぁな、もうしてるかもな」
ってことは撤去できたってことか…な?。
もっと確証が欲しいな。
すると、遥はある「気」を感じ取った。
「……」
誰の気だろ?
知っている気だ。しかも一つじゃない。近づいてくる。
正体を確かめようとしたとき、ドアがノックされた。
「リハルト、ボスがお呼びだ。それと女もな」
さっきの親玉のとこへ連れて行かれ、手と足、そして胴を椅子に固定され縄で縛られた。
またですか…。
「お前を助けに王子様が来たぞ」
ニヤリとディアンは笑った。
王子様…? まさか…アラン…
遠くで物音が聞こえる。その中に銃声もあった。
アランが来ているならレオさんもいるわけだけど、あともう一人は誰…。護衛じゃない…。
しばらくした後、物音がしなくなった。
カチャリ、とこの部屋のドアノブが回った。
「……」
リハルトは銃を構え、ディアンはナイフを遥の喉元へ当てた。
ドアが開き、そこに立っていたのはディアンの手下だった。
だがリハルトは銃を下げない。
手下がヨロヨロと入ってくる。その後ろにはレオがいて、手下の片腕を捻り上げていた。
そしてその後ろにはアランが銃を構えていた。
もう一人は遥からは見えなかった。
「―っ、遥っ!」
遥を見つけたアランが叫んだ。
「アラン、―っ」
ぐいっと髪をつかまれ首を反らされる。
「ようこそジュニア。鍵は手に入れたか?」
クククと笑う。
「たとえ手に入れたとしてもキサマに渡すと思うかっ」
「…これでもそう言い切れるかな?」
グッとナイフの切っ先が遥の首に食い込んだ。
プツっと音がしたような気がした。
切っ先から血が滲んだ。
「よせっ。その娘は関係ないだろ」
「ああ。役に立つかと思ったが期待外れだったからな、この際人質にした」
よく言う…もともとそうするつもりだったくせに。
ディアンの心を読んだ遥は呆れた。
「彼女を放せ」
依然、両者ともその場から動かない状態だ。
リハルトはアランの後ろにいる人物に警戒している。
「そうはいかない。鍵の情報が先だ」
「……それは」
「アラン、いけません」
言い迷ったアランに、レオはキツく言った。
「言ったところで遥さんの命に保証はないのですよ」
さすがレオさん、わかってるね。まさにその通りで、情報を聞いた時点でディアンは私の喉をかっ切る気だ。
アランは遥を見た。
遥はニッと小さく笑った。
そんな遥にアランは驚いた。まったく怖がっていない。
「心外だな、私はそこまで非道ではない」
と言いつつ、ディアンはニヤリと笑った。
「……」
微妙に少しずつナイフが食い込んできてるのよね…。
「何をしている、さっさと情報をやったらどうだ」
突如、声がした。
アランたちでもなければディアンたちでもない。
――日本語。
…この声、まさか…。
遥はギョッとした。
アランの横に出てきたのは…。
「…橘さん」
なんで橘さんが、っていうよりなんで一人なの!? 仮にも総長なのに一人で乗り込むなんてありえない!!
「誰だ?キサマ」
突然現れた橘にディアンの気が逸れる。
「誰でもいいだろう。…いい格好だな?」
めんどくさそうに答えた後、後半の言葉は遥に向けられた。
「…おかげさまで。…少し下がっててくれますか?」
話すと余計に切れるんだけど仕方ない。
「おいっ、何を話している! 勝手に話すなっ。リハルトっ」
「…丸腰か?」
リハルトは銃口を橘へ向けた。
遥はそれに目を向けつつ言った。
「アラン、一つ聞くわ、鍵を見つけて宝を手にしたらどうするつもり?」
「宝を手にするのは私だっ!」
ディアンが割り込むが無視する。
遥の真剣な眼差しにアランはキッパリと言った。
「すべて焼却する。親父も了承している」
「バカなっ、正気なのか? あれだけの量を手にすればイタリアだけじゃない、ヨーロッパ中を手に入れられるんだぞっ」
「薬で手に入れたものなどすぐに失う」
「…アラン、よくできました」
ふわりと遥が微笑んだ。
ドキリとするアランだが、次の瞬間、
――バリンッ!
と、遥とディアン、リハルトの後ろの窓ガラスが割れたのだ。しかも部屋に向かって。
飛び散ったガラスはディアンとリハルトに集中した。
「な―、なんだっ!? うわぁっ!」
バキッ。
今度は遥に突きつけられていたナイフの刃が粉々に割れて、スカートの上に落ちた。
「―っ!」
ディアンは目を見開き、遥を凝視した。
リハルトもガラスの破片から顔を腕で庇いながら、信じられないという顔をしている。
もちろんアランとレオも。
ブチッブチッと縄が切れ、遥は手首をさすった。
首の傷は触ると痛そうだったのでやめた。
血が少し流れてるのが感覚でわかった。
スッと立ち上がると、ディアンが後ろへ後退した。
「な、う、動くなっ。学校がどうなってもいいのかっ!」
顔を強ばらせながら、ディアンは内ポケットからスイッチを取り出した。
「……」
「…あぁそうだ、榊から伝言だ、お前を迎えに行ったとき、体育館のあたりに作業服を着たデカがいたそうだ」
思い出したかのように橘は言った。
それを聞いた遥はニッコリ笑った。
「これで安心して…」
暴れられる。と、ニヤリと今まで見せたことのない笑みを浮かべた。
そんな遥の様子を、ただ凝視しているアラン。
「…遥?」
「…説明は後でするから」
背を向けたまま遥は言った。
そして、片手を少し上げた瞬間、床に散らばっていたガラスの破片たちがフワッと浮いた。
「―っ! リ、リハルトっ」
リハルトは橘に向けていた銃口を、今度は遥に向けた。
それを見たアランは銃口をリハルトに向けた。レオは人質としている手下を押さえたままだ。
「ねぇ殺し屋さん、いくらで雇われたかは知らないけど、そろそろ決めた方がいいんじゃない?」
「…そうだな…」
少し考えた後、リハルトは銃を仕舞った。
その様子を見ていたディアンは目を見開いて叫んだ。
「なっ、なにをしている! さっさと小娘を撃てっ!」
しかし、リハルトは銃を出そうとしない。
「キサマっ、裏切るのかっ!」