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「……」
朝からずーっと視線が痛い。もちろん原因は分かっている。登校時の光景のせい。
一昨日の夜のこと。
『これからはバイト、登下校時には送り迎えをさせる』
これが始まりだった。しかも麗子さんからもお誘いを受け、あろうことか麗子さんは橘さんの恋人ではなく姉だというし。気に入ってもらえたのは嬉しいけど、
「…なんだかなぁ…」
はぁ〜と机に突っ伏す遥。
「よぉ〜!」
陽気な声が近づいてきた。
「とんでもない奴と登校してきたな〜」
顔を見なくても分かった、
「…笑い事じゃないんだけどねぇ」
そう、威は笑っていたのである。面白いネタを見つけたかのように。
遥の前の席に座るとニヤリと笑った。
「まぁ、ある意味笑い事じゃないけどな。どういう成り行きよ?」
「…ごめん、こればっかりは事が片付くまで言えない、巻き込むわけにはいかないから」
「もしかしてアラン絡みか?」
遥は頷く。
「けっこう厄介なのか?」
「どうかなぁ」
理事長はアランたちの目的を知ってるだろうけど、どうするか・・・。
早く終わらせて家に帰りたいし。
本当は、私を受け入れてくれている人にはやりたくないんだけどな、あれは。
まぁ、なんにせよ、あとで理事長のとこへ行ってみるか。
ピンポンパンポーン。
放送のチャイムが鳴った。
「ん? 誰かの呼び出しか?」
「珍しいね」
『二年E組 宮城遥さん、事務室前までお越しください』
「あたし?」
一斉に周りの生徒たちが遥を見る。
「しかも職員室じゃなくて事務室だってよ」
「なんだろ。とりあえず行ってくる」
次の授業のチャイムが鳴ったがそのまま事務室へ向かった。
事務室とは、まぁ、部外者用の受付のようなところだ。業者もここを使う。
「すいません、二年E組の宮城ですが」
「あぁ、宮城さんにお客さんよ」
「お客?」
「ええ、親戚に外国の方がいるなんて凄いわねぇ。門のところで待ってるわよ」
おばちゃんはニコニコしながら言った。
「…はぁ…」
親戚に外国人なんていない。
靴に履き替え門へ向かった。
アランなら直接来るだろうし、ということは・・・。
門まで行くと、門の陰にその外国人はいた。
「……誰」
見た瞬間、だいたい予想はついたけど。
「宮城遥?」
外国人の男は英語で話してきた。
キングイングリッシュ。
聞き覚えのある声と発音。
…やっぱり。
「そうだけど、あなた…一度会ってるわね」
遥も英語で答える。
「なんだ、話せるのか。そうだな、なら話は早い。俺が来た理由はわかるな?」
「イヤだと言ったら?」
「まぁ、それならそれでいいが、その時はこの学校が吹っ飛ぶぜ?」
「……」
冗談っぽく言っているが、本当のようだ。
いつの間に仕掛けたのやら。
火薬の場所は今すぐに特定できない。
この人の心の中を読まないと無理か。
仕方ない…。
「仕方ないですね、いいでしょう。ただし、行く代わりに仕掛けた場所を教えてください」
「いいだろう、中庭だ」
『あと体育館だけどな』
「…どうも」
遥はニッコリ笑った。
ばっちり心の声も聞いた。
理事長に教えないといけないけど、しばらく携帯は使えないだろうから、直接話しかけるしかないか。疲れるけど仕方ない。
「では行こうか」
殺し屋と共に車に乗り、敵のアジトへ向かった。
道中、目を瞑ったまま終始無言の遥を、肝が据わってるなと思った殺し屋だった。
しかし、遥はただ意識を理事長に集中してるだけだった。
一方、なかなか遥が戻ってこないことに気付いた威が、校内を探し回っていた。
「アイツどこ行ったんだ? 周りの奴らに聞いても見てないっていうし」
事務室前で見たっていうのが最後。
普段ならこんなことはありえない。
「客が来たって言ってたな…」
しかも外国人の親戚だって? そんな話聞いたことないぞ。
「何かあったな」
とりあえず理事長のとこに行ってみるか。
『理事長』
突然頭の中に声が響いたので、綾子は持っていたカップを落とした。
「だ、誰です?」
『驚かせてすいません、遥です』
「は、遥さん!?」
今までこんなことはなかったので、綾子はただただビックリするだけだった。
『少し気味が悪いかもしれませんが緊急です。少し我慢してください。今から言うことをよく聞いてください』
「わかったわ」
そうして遥は事の次第を綾子に告げた。
遥を乗せた車は、この間軟禁されていた場所へ着いた。
「…頭悪いのか?」
日本語で呟いた。
普通、場所変えると思うんだけど。
殺し屋の後をついて辿り着いた部屋には、恰幅のいい男が座っていた。
男は遥を見るなりイヤな笑みを浮かべた。
あぁ…コイツも嫌いな部類かも…。
「待っていたぞ」
「…待たれる理由はありませんが」
「ほぉ、この状況下にいても平気とは、よっぽどの馬鹿か相当場慣れしているのか」
「さぁ? どっちでしょうね」
「それとも…」
男はまたもイヤな笑みを浮かべた。
「変な力があるせいかな?」
「…」
まぁ、銃のことと吹き飛ばした男のことを考えれば気付くかな。
遥はニッコリ笑った。
この男は私の力を利用したいのだろう。
「あなたが思ってるほど、力はないですよ」
「否定はしないんだな」
遥はニッコリ笑うだけだった。
「まぁいい。お前にやってもらいたいことがある」
「…イヤだと言ったら?」
「生きて帰りたいのなら言うことを聞くんだな」
「……」
コツっと背中に硬いものがあたった。
そういえば、真後ろに殺し屋がいたんだっけ。背中に銃口があてられていた。
どのみち用が済んだら殺す気なのは分かってるけどね。殺される気はまったくないけど。
「…あなたたちが日本に来た目的は何?」
「ジュニアから聞いているだろう?」
「聞いてないわ。目的については何も話さなかったですよ」
「ほぉ、こんなことになっても話さないとはな、非常な奴らだな」
あんたほどじゃないと思うけど。
「いいだろう、目的を話そう。聞いたら後戻りはできないがな」
遥から話を聞いた綾子は、すぐさま威を呼び出し、内密に威の父親と連絡を取り、爆弾処理班を呼んだ。
もちろん他の生徒や教員にバレないように、作業員の格好をしてもらった。
「理事長、宮城は平気でしょうか」
まずは中庭から作業を開始した。
「大丈夫だと本人は言っていたのだけれど…、心配ですわね」
「アランには?」
「連絡しました。心当たりをあたってみると」
「親父たちも探すと言ってました」
「問題はあの方ですわね…」
「…知ってましたか」
「えぇ、遥さんの情報はすぐ分かりますからね」
ほほほ、と、綾子は笑った。
あの方とは橘のことだろう、今朝の出来事を知っていれば遥が白神組となんらかの関係であると分かるだろう。
遥が連れ去られたと知ったらどう出るか。
「本当にいつの間に親しくなったのかしらねぇ」
「嫌がってましたけどね」
二人は小さく笑った。
綾子から連絡をもらったアランはイライラしていた。
「……」
その様子を紅茶を飲みながらレオは見ていた。
「レオ! 呑気にお茶なんか飲んでる場合か!」
「…落ち着いてください。今むやみに動いては遥さんもあなたも危ないんですよ」
「これが落ち着いていられるかっ。また連れ去られたんだぞ、今度は逃げられないっ」
一度逃げられているんだ、そう簡単には逃がさないはずだ。
「そうですね。ですが、なぜ奴らは執拗に遥さんを狙うのでしょう」
確かにそうだ。
「だが、それは俺を誘い出すためじゃないのか?」
「それもあると思いますが、それ以外にも何かあるような気がするんです」
「……」
「何か、奴らにとって優位になるものを遥さんが持っているとか」
「…とにかく、遥を探す」